Ichthus School of English イクサス通訳スクール

Ichthus School
of English

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 「秘すれば花」を改題したものです。

私は自分でイクサス通訳スクールを始める前は大学で通訳演習という授業を持っていました。大半は語学好きの女子。今のスクールの通訳受講生の方たちも 99.9% は女性です。

大学の通訳演習の授業を始める前、毎年学期初めに、通訳者あるいは通訳という仕事についてどういうイメージを学生たちが持っているかを調べるのにアンケートを取ります。

通訳に関するイメージは、少なくとも私が取ったアンケートによると、たいへん肯定的なものでした。「カッコいい仕事」「専門職のひとつの花形」「スキルだけで評価される性差のないプロフェッション」などなど。「国際コミュニケーションに直接、貢献できる仕事」といった内容もありました。

指導教師として私の最初の仕事は、「もてはやされ、注目を浴びられる花形的な専門フリーランス」の通訳者のイメージを、学生たちには申し訳ないが、あっさりと塗り替えることでした。間違った認識から物事を始めると誤った結果を導き出すことになります。

こういう嫌らしいイメージを生み出している元凶は、テレビ番組やYouTubeのビデオに、スター気取りで登場している通訳者たちにあるのかもしれません。

「通訳というものは必要悪」である、というのが私の基本的な前提です。国語辞典には、必要悪の意味として「ないほうが望ましいが、社会や世の中にとって必要で、なくすわけにいかないものやこと」と定義されています。通訳という仕事は、ほぼこの定義に当てはまります。

通訳はないほうが望ましい?といぶかる方もおられるかもしれません。コミュニケーションというものは、誰かに「代弁」してもらうよりも、発言者が自分で考え、意見、思想、思いを直に述べるやり方に勝るものはないからです。日常生活でも誰かに代弁してもらうと、「そこはちょっと自分が言いたいこととはニュアンスが微妙に違うんだよね」というなんとも歯がゆい現象が生じるのと同じです。自分で直接伝えるのが望ましい。

しかし、相手が自分の母国語を共有しない人となれば話は変わります。例えば、相手が英語話者で日本語が理解できないとすれば、自分が英語を話せない限り、意思の伝達をあきらめるか、英語ができる人に代弁してもらうしかありません。日常会話の内容ならば、どうにかこうにか、英語を駆使できても、伝えたい内容のレベルが高く、複雑なものになれば、立ち往生することになります。言葉が不自由では、下手すれば、せっかくの話し手の金言・名言もたちまち戯言 (たわごと) になることもあります。

世界にはマイナー言語を含めれば 7,000以上の言語があり、主要言語だけでも20以上の言語が中心的に話されています。伝達の相手が変わるたびに、それらの言語や文化にみんなが精通できるわけがありません。ですから、あなたの「代弁者」として通訳者は「なくすわけにいかない」のです。ちなみに、AI 通訳は機械的な通訳作業はある程度できるでしょうが、人間の感情のひだや言葉の陰影という巧緻なレベルの伝達はこの先もずっとできない、と私はあきらめています。

「主役」はいつも発言者です。通訳者はいつも「代弁者」。主役の存在や存在感を希薄にしたり、丸ごとジャックしてしまうような代弁者は失格です。注目を浴びるのは発言者でなくてはいけません。通訳者が注目や脚光を浴びるのは本末転倒ですし、自己顕示欲の強い人は代弁者である通訳者になるべきではないのです。

振り返れば30年以上、私は通訳の仕事にたずさわってきました。個人的には、逐次通訳よりも同時通訳が好きです。講演者の逐次通訳を勤めれば、私も聴衆の前に顔を晒すことになります。ところが、同時通訳だと、離れたところに設置されている同時通訳ブースから通訳ができます。聴衆には私の「声」しか聞こえません。姿は、あえて聞き手がブースの中を覗いてみようとしない限り、目に入らないのが普通です。私は発言者の「声」だけになれるのです。これは必要悪である通訳の理想的な形だと思っています。適切に発言者の代弁をできる人であれば、私である必要はありません。所詮、「声」なのですから。

通訳を職業にするために訓練を受けようかと思案中の方はご自分に問いかけてみてください。ただひたすら発言者の「声」に徹すことができるだろうか?できる限り誠実に正確に発言者の代弁をつとめられるだろうか?注目や脚光を浴びるに値するのは発言者であり通訳者ではないけれど満足できるだろうか?と。

通訳者は X でいいのです。通訳者 X。ー  米倉涼子さんが演じる「ドクターX」の大門未知子というフリーランス外科医の決め台詞は「私、失敗しませんので」です。が、残念ながら、通訳者は失敗することがあります。失敗を重ねながら、より正確な「声」になっていきます。より誠実な「声」になっていきます。私はそういう通訳者 X たちを、可能な限り指導していきたいと思っています。(Jay Hirota)

 

Jay Hirota 略歴

サンフランシスコ州立大学・大学院 (専門・行動科学)San Francisco State University

モントレー国際大学翻訳通訳大学院(MIIS)Monterey Institute of International Studies

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