毎日10分通訳練習 11 イクサス式シャドーイング練習

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シャドーイングは通訳練習に役立つのか
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シャドーイングは語学学習ではよく知られた練習法です。英語学習書や語学教材でも頻繁に紹介され、多くの学習者が取り組んでいます。しかし、通訳訓練という観点から見ると、その効果については誤解されている部分が少なくありません。
私はモントレー国際大学院 (現・ミドルベリー)MISS で通訳学を学び、そして帰国後、専門分野を教える傍ら、大学で通訳演習の授業を担当してきました。教育の現場では、研究論文で紹介されている訓練法を実際に学生に試し、その効果を検証することができます。外科医学でさまざまな術式の有効性を比較するのと同じように、通訳教育でも実際に試してみなければ分からないことが多くあります。

そうした経験から言えるのは、いわゆるプロソディ・シャドーイングは、通訳練習そのものにはあまり役に立たないと私は考えています。今回はその理由について説明します。
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通訳訓練と語学訓練は別のもの
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まず前提として、語学訓練と通訳訓練は本来別のものです。
通訳訓練は、対象言語(target language)にすでに十分習熟していることを前提に行われます。つまり、英語を理解できること自体は出発点であり、その上で情報処理や再表現の能力を鍛えるのが通訳訓練です。
しかし日本の現状では、多くの学習者が英語力そのものを伸ばしている段階にあります。そのため通訳訓練の場が語学訓練の役割も担うことが少なくありません。日本の言語事情を考えれば、これはある程度やむを得ないことでもあります。この前提を踏まえて、シャドーイングを見てみましょう。
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シャドーイングとは何か
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発話シャドーイングは1950年代後半、音声知覚や吃音症の研究の中で用いられた方法です。その後、第二言語習得の研究で応用され、リスニングやスピーキング能力を高める練習法として広く知られるようになりました。
語学学習におけるシャドーイングとは、聞こえてくる発話をほぼ同時、あるいはわずかな遅れで、そのまま口頭で再生する練習です。
シャドーイングにはいくつかの種類があります。
マンブリングは、小声でつぶやく方法です。
サイレントは、声に出さず頭の中で反復します。
コンテンツは、意味理解を意識して行います。
プロソディは、意味よりも音声の再現を重視する方法です。
日本で一般に「シャドーイング」と言う場合、多くはこのプロソディ・シャドーイングを指します。prosodic は「音韻的な」という意味です。
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語学学習としての効果
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シャドーイングには一定の効果があります。リスニング能力、復唱能力、発話スピード、語彙の定着など、語学学習としての効果は研究でも確認されています。
問題は、その実施方法です。
何を素材として使うのかという点が、実はあまり議論されていません。ただ英語音声の後を追って声に出すだけでは、効果は限定的です。特に成人学習者の場合、内容の知的レベルが合わない教材では練習そのものを継続することが難しくなります。
英語レベル、知的レベル、学習目的に合ったシャドーイング教材は、日本ではまだ十分に整備されているとは言えないのが現状だと思います。
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通訳訓練として弱い理由
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実際の通訳では、聞こえた音をそのまま繰り返すことはありません。必ず「情報の再構築」が行われます。
聞き取った内容を頭の中で瞬時に組み立て直し、別の言語で再表現する。この作業には高度な集中力と思考力が必要で。
しかしプロソディ・シャドーイングは、音声を追う作業になりやすい。聞くことと考えることが同期しないまま、反射的な発話の習慣がついてしまうことがあります。
大学の通訳演習でも、学生に数か月シャドーイングを続けさせたことがあります。確かに音声を追う能力は向上しました。しかし
通訳をさせると、多くの学生は情報の整理が弱く、内容の再構築が十分にできませんでした。
つまり、音を追う能力が伸びても、通訳力が伸びるとは限らないのです。
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速く反応するが、考えない
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この点については、通訳者の間でもよく指摘されています。
友人のあるアメリカ人会議通訳者は、こう言っていました。
「シャドーイングは『とにかく反応する。考えるのは後』という思考パターンを作りやすい。その結果、論理を無視した即断的な発話が起きやすくなる。」
通訳は速さだけでは十分ではありません。内容を理解し、論理を保ったまま再表現する能力が不可欠です。

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まとめ
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以上の理由から、私はシャドーイングを通訳訓練の中心的な方法としては採用していません。音声の影を追う能力が伸びても、通訳に必要な情報処理能力が必ずしも伸びるとは限らないからです。
ただし、シャドーイングがまったく意味がないと言いたいわけではありません。
少しおこがましいですが、私自身の同時通訳の日本語通訳と、私の大先輩である故・西山千氏の英語通訳の録音を添付しておきます。通訳の「型と発話リズム」を体で覚える練習として、シャドーイング素材として使ってみてください。
他にもシャドーイング練習に使える通訳者の通訳は入手可能です。
私の日本語同時通訳
https://drive.google.com/file/d/1KCFwxgYvdspKhOs4tIFZ_b0yBR5Cp6Zb/view?usp=sharing
西山千氏の英語同時通訳
https://drive.google.com/file/d/1LH0rAQtJ13FmPAiVd_jrmlW_c-tcQ1LU/view?usp=sharing
経験を積んだ通訳者の通訳を、まるで自分が通訳しているかのように繰り返し、ほぼ同時に後について発話してみる(シャドーイングする)ことで、上手な通訳の基礎が少しずつ内在化していきます。
経験を積んだ通訳者の発話には、情報の整理の仕方、語順処理、論理の通し方、言い切り方など、独特のパターンがあります。それを繰り返し声に出して追うことで、通訳の発話スタイルを身体感覚として身につけることができます
(文・Jay Hirota)
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