Ichthus School of English イクサス通訳スクール

Ichthus School
of English

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文脈から語彙を推測する力
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通訳の訓練生には、SATレベルの語彙を覚える必要があるということは、これまでにも書いてきました。語彙を増やすには意識的な努力が必要です。しかし実際の通訳の現場では、すべての単語を知っているとは限りません。

報道、ビジネス、政治、学術講演など、実際の発話では必ずと言ってよいほど知らない単語に出会います。そのときに必要になるのが、文脈から意味を推測する力です。

つまり、単語を単体で理解するのではなく、話の流れや前後関係から、その単語がどのような意味で使われているのかを判断する能力です。

通訳をしている最中に辞書を引く時間はありません。したがって、未知の語彙に出会ったときでも話の内容を理解し続けるためには、コンテキストを手がかりに意味を推測する力が不可欠になります。

 

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例:circumscribe
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たとえば、次のような文を考えてみましょう。

During the meeting, the manager tried to circumscribe the discussion so that it would not drift away from the main issue.

ここで circumscribe という単語を知らなかったとしても、前後の文脈を考えると意味をある程度推測することができます。

文の後半には

so that it would not drift away from the main issue

とあります。つまり「議論が本題から逸れないようにする」という意味です。

そこから考えると circumscribe は

議論の範囲を限定する
話を本題にとどめる

といった意味で使われていると推測できます。

したがって、この文は次のように通訳できます。

「会議では、議論が本題から逸れないように、マネージャーが話の範囲を限定しようとしていました。」

 

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例:precipitate
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もう一つ例を見てみましょう。

The sudden policy announcement precipitated a sharp decline in the company’s stock price.
Investors reacted immediately, selling their shares in large numbers.

ここで precipitate という単語を知らなかったとしても、文脈から意味を推測することができます。

最初の文では「突然の政策発表」があり、その結果として「株価の急落」が起きています。つまり、政策発表が株価急落の原因になっているわけです。

さらに次の文では、投資家がすぐに反応し、大量に株を売ったことが説明されています。株価急落の理由がここで補足されています。

この流れから考えると precipitate は

引き起こす
急激な変化のきっかけになる

という意味で使われていると推測できます。

したがって、この文は次のように通訳できます。

「突然の政策発表で、その会社の株価は急落し、投資家はすぐに反応し、大量の売りが出ました」

 

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推測の根拠は文脈
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このように、知らない単語が出てきても、文の構造や話の流れを考えれば意味の方向性をかなり正確に推測することができます。

特に報道やビジネスの英語では文章の論理構造が比較的はっきりしています。そのため、接続関係や文の後半の説明部分を手がかりにすると、単語の意味を推測できることが多いのです。

通訳では「単語を知っているかどうか」だけが重要なのではありません。むしろ重要なのは、知らない単語に出会っても文脈から意味の方向を判断し、理解を維持する能力です。

 

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練習には新聞・雑誌記事が最適
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こうした語彙推測の練習には、英語の新聞や雑誌の記事を使うのが非常に効果的です。

新聞記事や雑誌記事は基本的に「情報を伝える」ことを目的として書かれています。そのため文章構造が比較的はっきりしており、読者が理解しやすいように書かれています。つまり語彙推測の練習にも向いているのです。

特にニュース記事では、背景説明や結果が続く形で書かれることが多く、文脈から意味を推測するためのヒントが自然に含まれています。

とにかく毎日読むことです。1記事でも構いません。できれば2記事ほど読むとよいでしょう。量よりも継続が大切です。

 

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日本の小説の英訳を読む
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もう一つ効果的な方法があります。すでに日本語で読んだことのある小説の英訳を読む方法です。

まず日本語の原文を10ページほど読み、その後で同じ箇所の英訳を読みます。内容は日本語で理解しているため、英語の文章に出てくる未知の単語も文脈から意味を推測しやすくなります。

桐野夏生『グロテスク』から初めの部分を例として見てみましょう。

 

 


日本語原文

注意深く見ればおわかりになると思いますが、わたしはハーフです。父はポーランド系スイス人です。父の父、つまり父方の祖父は教師をしていて、ナチスドイツから逃れてスイスに亡命したそうです。

父は貿易商でした。と言えば聞こえはいいのですが、実際は駄菓子に近い質の悪いチョコレートやクラッカーを輸入する仕事をしていました。西洋お菓子屋さんというわけです。しかし、わたしが子供の頃は、父の商うお菓子など一個も食べさせてもらったことはありません。

わたしたちの暮らし振りは質素でした。食べ物も服も文房具もすべて日本の物でしたし、インターナショナルスクールにも行けず、日本の公立小学校に通っていました。小遣いは厳しく管理され、家計も母の思う通りにはならなかったらしいです。


英訳版

If you look closely you’ll notice that I’m “half.” My father is a Swiss national of Polish descent. They say his grandfather was a minister who moved to Switzerland to escape the Nazis and then died there.

My father was in the trade business, an importer of Western-style confections. His line of work might sound impressive, but in fact the products he imported were poor-quality chocolates and cookies, nothing more than cheap snacks. He might have been known for these Western-style sweets, but when I was growing up he never once let me eat one of his products.

We lived very frugally. Our food, clothes, and even my school goods were all made in Japan. I didn’t go to an international school but attended Japanese public elementary schools.

この文章の中で、推測が必要になる可能性がある語としては、次のようなものが挙げられます。

descent
confections
frugally

いずれも、一般的な語彙よりやや難度が高く、文脈から意味を推測できる語です。

たとえば

descent
→ a Swiss national of Polish descent という表現から「〜系の」「〜の血統を持つ」

confections
→ chocolates and cookies という具体例から「菓子類」「洋菓子」

frugally
→ food, clothes, school goods の説明から「質素に」「倹約して」

 

などと推測できます。

通訳訓練として特に良いのは

confections
frugally

の二語です。どちらも、後ろに具体的な説明や例が続いているため、辞書を引かなくても意味の方向をかなり正確に推測することができます。

また、一度日本語で内容を読んでおけば、話の流れはすでに頭に入っています。そのため、英語で初めて出会う単語でも、文脈から意味を推測しやすくなります。

近年は日本の小説が数多く英訳されているため、日本語原文と英訳を併読する方法は、以前よりもずっと実践しやすくなっています。

 

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日本の新聞社説の英訳を読む
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小説よりもさらに手軽に毎日読めるのが新聞の社説です。

 

                   

 

たとえば、読売新聞の社説The Japan News に英訳版が掲載されていますし、毎日新聞の社説The Mainichi で英訳を読むことができます。これらの記事はオンラインで簡単に読むことができます。

まず日本語の社説を読んで内容を理解し、その後で英語版を読むと、話の流れはすでに分かっています。そのため、英語で未知の単語に出会っても、文脈から意味を推測することが容易になります。

このように、日本語で内容を理解した文章を英語で読み直す方法は、語彙推測の訓練として非常に有効です。それに、通訳に必要な言葉の「変換」がしやすくなります。

(文・Jay Hirota)

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