毎日10分通訳練習 ④ メモ取り練習 1

この教材について(④の位置づけ)
この練習は、
「毎日10分通訳練習① 要約練習(事実型)」
「毎日10分通訳練習② 要約練習(分析型)」
「毎日10分通訳練習③ 要約練習(意見型)」
を終えた段階で、次に取り組むメモ取り練習です。
①〜③では、聞いた発話を理解し、整理し、日本語として再構成する練習を行ってきました。
④では、通訳のために、発話の論理を一瞬で思い出せる形で残す練習に入ります。
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メモ取り練習とは何か
通訳メモに決まったルールはありません。
聞いた内容を正確に保持でき(to retain)、適切に通訳できるのであれば、どのような形でも構いません。
短い発話であれば、メモなしで処理できる場合もあります。
ただし、発話がある程度の長さになると、リテンション(記憶)だけで処理するのは現実的ではありません。
記憶への負荷が高まり、通訳の精度が落ちます。
その負荷を下げ、通訳を安定させるための補助として、メモは非常に有効です。
重要なのは、メモに正解の形はないという点です。
自分に合ったメモは、試行錯誤を重ねながら開発していくものです。
ここで紹介する方法は、私自身が長年の経験の中で辿り着いたメモにすぎません。
一つの参考として読んでください。
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私が英文字メモを勧める理由
私はアメリカの大学院(MIIS)で、通訳を専門に学ぶ課程で訓練を受けました。
日本に戻ってきて興味深く感じたのは、多くの通訳訓練生が非常によく似たメモを取っていたことです。
ノートの中央に縦線を引いて左右に分け、狭いスペースに小さな文字と多くの記号を書き込む。
見た目も読みにくく、実際の通訳場面で瞬時に意味を取り出せるのかという疑問がありました。
私の考えでは、メモはできるだけ「しっかり整理して書く」ほうが実用的です。
視認性が高く、瞬時に意味を取れるからです。
また、記号は便利そうに見えますが、含められる意味が多すぎて、実際には処理が遅れることもあります。
私自身も以前は、日本語・英語・記号を混ぜてメモを書いていました。
しかし日本語は、漢字・ひらがな・カタカナ・ローマ字が混在し、
「今どの文字で書くか」を一瞬迷うことがあります。
その一瞬で手が止まります。
英語はアルファベット26文字と数字、簡単な記号だけで完結します。
そのため私は、かなり以前から通訳メモは基本的に英文字だけで取るようにしています。
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練習例(事実型発話)
以下は、要約練習のときの事実型の発話を使ったメモ取り練習です。
すべてのメモは、左から右に下がる形で書いています。
これは、思考の流れを視覚的にそのまま残すためです。
例:Greenland の地政学
Audio
https://drive.google.com/file/d/14P9GPYEXFlp51U-lZm01NZo1bi-WBxlW/view?usp=sharing
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発話①
Greenland’s geopolitical history can be understood as a story of how location matters more than size or population. Greenland is the world’s largest island, located in the Arctic, yet it has a very small population. Despite this, its position is crucial. It sits between North America and Europe and serves as a gateway to the Arctic Ocean, which has shaped its strategic importance over time.
メモ:
Greenland = loc > size/pop
world largest isl / Arctic
pop small
pos = key
btw NA – Eur
gateway → Arctic Ocean
→ strat importance
メモの整理:
最初に評価の軸である「立地が最重要」という結論を置き、
次に対比情報、地理条件、そして戦略的重要性へと、
論理が前に進むように配置しています。
日本語通訳例:
グリーンランドの地政学的な歴史は、面積や人口よりも立地が重要であることを語っています。世界最大の島で北極圏に位置しながら、人口は非常に少ない地域です。それでも北米とヨーロッパの間にあり、北極海への玄関口となっていることが、戦略的に重要になってきました。
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発話②
For thousands of years, Greenland has been home to Inuit peoples, known today as the Kalaallit. In the 10th century, Norse settlers from Iceland arrived, led by Erik the Red, and established small farming communities along the coast. These settlements eventually disappeared, mainly because of climate cooling and isolation. At this stage, Greenland had little geopolitical significance beyond local survival.
メモ:
Inuit ppl = Kalaallit
thousands yrs
10C Norse fr Iceland
Erik the Red
coastal farms
↓ disappear
climate cooling + isolation
→ low geopolit sig
メモの整理:
時間の流れに沿って配置し、最後に「重要性は低い」という評価を最下段に置いています。
日本語通訳例:
グリーンランドには何千年もの間、現在カラリットと呼ばれるイヌイットの人々が暮らしてきました。10世紀には、赤毛のエイリークに率いられたノース人が到来し、沿岸部に農耕集落を築きましたが、寒冷化と孤立により消滅しました。この段階では、地政学的な重要性は限定的でした。
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発話③
During World War II, Denmark was occupied by Germany, leaving Greenland without direct protection. The United States stepped in and built military facilities on the island. This marked a major turning point, as Greenland became vital for defending North America and for air routes connecting the United States and Europe.
メモ:
WWII
Denmark occ by Ger
Greenland no protect
US step in
build mil fac
turning pt
def NA
air routes US–Eur
メモの整理:
原因 → 対応 → 結果という因果関係が、そのまま右下方向に流れるように配置しています。
日本語通訳例:
第二次世界大戦中、デンマークがドイツに占領され、グリーンランドは保護を失いました。そこでアメリカが介入し、軍事施設を建設します。これが転換点となり、グリーンランドは北米防衛や米欧間の航空路にとって重要な拠点となりました。
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まとめ:メモの考え方について
この発話全体が示しているのは、歴史を並べることではなく、
「立地が価値を生む」という一本の論理(ロジック)です。
そのため、メモでは出来事を同じ重さで書く必要はありません。
評価の軸を最初に立て、それを最後まで一貫して残すことが重要です。
数字や固有名詞を落とさず、時間軸を保つこと。
一方で、情報を詰め込みすぎず、因果の流れが一目で見える量まで削ること。
このバランスが、実用的な通訳メモにつながります。
ひと言アドバイス:
主役はあくまで「リテンション」です。聴きながら記憶を保持し、「情報を整理」する要領でメモは書いていきます。メモは発話の流れ(論理)を一瞬で思い出せる「地図」でなければいけません。
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