毎日10分通訳練習 9 パラフレーズ練習

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通訳語彙を「使える語彙」に変える
パラフレーズ訓練で運用語彙を増やす
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語彙は増やすだけでは不十分です。
通訳に必要なのは「使える語彙」です。
通訳者が、長くまとまりのない発話を瞬時に明快な内容へと伝えられるのは、単に語彙を多く知っているからではありません。聞いた内容を、意味を落とさず、自分の運用語彙で言い換えて再構成できるからです。その中核にあるのがパラフレーズ訓練です。
今回は「パラフレーズ力」と「運用語彙」を鍛える方法を紹介します。
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語彙には二種類ある
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これまで語彙の増強についてお伝えしましたが、覚えた語彙を実際に使う練習をしなければ、通訳用の運用語彙にはなりません。
語彙には二種類あります。
見ればわかる語と、実際に口頭で使える語です。
通訳の現場では、話し手の脱線や冗長表現を整理し、文化的な違いによる誤解を防ぎ、記憶や思考を支える戦略が求められます。そこで必要なのは、聞いた内容を、意味を変えずに、理解しやすい形に整える力です。
その効果的な方法の一つが「パラフレーズ練習」です。
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パラフレーズとは何か
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パラフレーズとは、意味や情報を一切落とさず、自分の言葉で表現を組み替えることです。要約のように情報を削る作業ではありません。情報は保持したまま、語彙と構文だけを置き換えます。
通訳におけるパラフレーズは、異なる言語間の意思疎通を可能にする中核技術です。
やり方はシンプルです。
まとまった英語の発話を聞く
内容を理解する
意味を変えずに自分の語彙で言い換える
この技術は、理解を重視して聞き、要点のみを保持し、意味を再構成する訓練によって磨かれます。
同義語の活用 (「類義語辞書」の活用がお勧め。Roget’s Thesaurus、Merriam-Webster Thesaurusなど)
長文の分割
こうした再構成の練習がパラフレーズです。

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練習の基本ルール
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パラフレーズは、できるだけ「頭の中」で行うのが効果的です。メモを増やす練習ではなく、保持と再表現の訓練だからです。
できるだけメモは取らないこと
発話内容を頭の中に保持
聴き終えたらすぐに再表現する
内容は変えない
語彙と構文だけを変える
これは記憶保持の訓練にもなり、リテンション強化に直結します。
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今回の素材
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まずは原文セグメントの音声を聴いてみます。分からない箇所があれば何度か繰り返して聞きます。
Audio
https://drive.google.com/file/d/1AewO9M49whyxPb4vxfYbtjCBPyjtJCJm/view?usp=sharing
次に、音声で出てきた単語・表現を確認します。
Word help
With the stroke of a pen: ペンひと振りで
wreak havoc on: 大きな打撃を与える/混乱を引き起こす
favorite method: 最も重視してきた手法
wield leverage over other countries: 他国に対して影響力を行使する
landmark ruling: 画期的な判決
strike down: 無効とする/違憲として退ける
the administration’s global tariffs: 政権による世界的な関税措置
mark a significant blow: 重大な打撃となる
relish (exerting power): (権限行使を)好む
exert unilateral power: 一方的な権限を行使する
achieve his goals: 自らの目標を達成する
virtually unchecked: 事実上ほとんど歯止めなく
first year in office: 就任1年目
announce plans to reimpose the duties: 関税を再び課す計画を発表する
means available to him: 彼が利用できる手段
far less nimble: はるかに機動性に欠ける
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原文セグメント(The Japan Times)
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With the stroke of a pen, the U.S. Supreme Court wreaked havoc on President Donald Trump’s favorite method of wielding leverage over other countries. The justices’ landmark ruling Friday striking down the administration’s global tariffs marks a significant blow to a president who relishes exerting unilateral power to achieve his goals — something he did virtually unchecked during his first year in office. Trump quickly announced plans to reimpose the duties, but the other means available to him are far less nimble.
訳例(ここは要約ではなく、情報を全部保持して自然な日本語にする)
ペンひと振りの決定で、米連邦最高裁は、ドナルド・トランプ大統領が他国に対して影響力を行使するために最も頼りにしてきた手法を大きく揺さぶった。金曜日、最高裁判事らは、政権が導入した世界的な関税措置を無効とする画期的な判断を示し、目標達成のために一方的な権限行使を好む大統領にとって重大な打撃となった。とりわけ就任1年目には、そのような権限行使は事実上ほとんど歯止めなく行われていた。トランプ氏はすぐに関税を再び課す計画を発表したが、彼が利用できる他の手段は、機動性という点でははるかに劣る。
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要点整理(骨格を抜き出す)
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ここでは要約を作るのではなく、骨格を抜き出します。骨格とは、言い換えても消えない事実情報です。
最高裁が世界的関税を無効にした
その結果、トランプの対外圧力の主力手段が打撃を受けた
彼は一方的権限行使を好み、就任1年目はほぼ制約なく使っていた
関税は再導入を狙うが、代替策は遅く柔軟性が低い
これが、この段落が伝えている情報の骨格です。
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パラフレーズ例(短くしない。情報は保持する)
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ここからが本題です。パラフレーズは、情報を削らず、言い方を変える練習です。以下は、同じ内容を保ったまま、新聞調の表現を基本語に落として再構成した例です。
パラフレーズ例1(ニュース英文を「通訳用の英語」に整える)
In a single decision, the U.S. Supreme Court severely undercut President Donald Trump’s main way of pressuring other countries. On Friday, the justices issued a major ruling that invalidated the administration’s global tariffs. This is a serious setback for a president who prefers to use executive power on his own to get what he wants, and he was able to do so with very few limits during his first year in office. Trump quickly said he would try to bring the tariffs back, but the other tools he can use are much slower and far less flexible.
パラフレーズ例2(さらに平易に。聞き手が一回で理解できる形へ)
The U.S. Supreme Court has taken away President Donald Trump’s quickest tool for putting pressure on other countries. On Friday, the court ruled that his administration’s global tariffs could not stand, which is a big setback for a president who likes to act alone to reach his goals. In his first year in office, he was able to use that kind of power with almost no checks. Trump says he plans to bring the tariffs back, but the other options available to him take more time and do not work as smoothly.
重要なのは、どちらも情報を削っていないことです。
語彙と構文を変えただけです。
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「残る語彙」の説明(荒くしない)
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パラフレーズをすると、最後まで残る語と、消えてよい語がはっきり分かれます。ここを丁寧に見ます。
- 残りやすい語(骨格語)
これは、言い換えると情報そのものが変わってしまう語です。
固有名詞
the U.S. Supreme Court
President Donald Trump
政策・事実語
global tariffs
Friday
first year in office
行為の核
ruled / struck down / invalidated(最高裁が無効にした、という事実)
plans to bring the tariffs back(関税を戻そうとしている、という事実)
比較の核
slower / less flexible(代替手段が鈍い、という対比)
これらは、記事の骨格なので残ります。言い方は変えても、内容として必ず残る部分です。
- 消えやすい語(修辞・評価・新聞文体)
これは、事実そのものではなく、記者の言い回しや強調です。
With the stroke of a pen
wreaked havoc
favorite method
wielding leverage
landmark ruling
marks a significant blow
relishes
virtually unchecked
far less nimble
これらは、情報の骨格ではありません。
通訳パラフレーズでは、ここを最初に入れ替えます。
たとえば、こう置き換えられます。
With the stroke of a pen → in a single decision
wreaked havoc → severely undercut / badly weakened
wield leverage → pressure
landmark ruling → major ruling
significant blow → serious setback
relishes → likes / prefers
virtually unchecked → with very few limits / almost no checks
far less nimble → much slower / less flexible
ここが「運用語彙化」の核心です。
難語や新聞表現を、確実に口から出る基本語に落とす。これを積み重ねると、語彙が本当に使えるようになります。
- なぜ「残る語は少ない」のか
ニュース英文は、装飾が多いからです。
実際に通訳で必要なのは、骨格語と、それをつなぐ基本動詞です。
今回の段落で言えば、骨格はだいたい次の要素に収まります。
誰が:Supreme Court
誰に:Trump
何を:global tariffs
いつ:Friday / first year
何が起きた:blocked / invalidated
次に何が起きる:plans to bring back
対比:other tools are slower / less flexible
この骨格が保持できれば、周辺の表現はかなり自由に言い換えられます。
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パラフレーズのコツ
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- まず骨格語だけを抜く
固有名詞、政策語、時間情報、行為の核。これが残る語です。 - 修辞は最初に捨てる
新聞英語の飾りを落としても、事実は残ります。 - 動詞を基本語に落とす
strike down → block / invalidate
wield leverage → pressure
reimpose → bring back
relish → like / prefer - 長い名詞句を分解する
favorite method of wielding leverage → main way to pressure
the other means available to him → other tools / other options - 評価語は弱める
landmark / significant / havoc などは、通訳では強すぎることがあるので、major / serious 程度に落とす。意味の方向だけ残す。
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教材としての英字新聞
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パラフレーズ素材としては、本格的な英語紙よりも、日本で発行されている英字新聞の方が取り組みやすい場合があります。文構造や論理展開が比較的明確で、情報の骨格が見えやすいからです。
さらに、日本関連の政治・経済・外交など、日本人の通訳者に直結する時事語彙が過不足なく入っています。過度に文化前提や皮肉表現に依存しない記事が多いので、運用語彙へ落とす練習がしやすいという利点があります。
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まとめ
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語彙は覚えただけでは運用語彙になりません。
通訳に必要なのは、聞いた内容を、意味を落とさず、自分の言葉で組み替える力です。
パラフレーズとは、難しい英語をやさしくする作業ではありません。
事実の骨格を残し、修辞と文体を入れ替える作業です。
そして、最後まで残る語は少ない。
残るのは情報の核だけ。
その核を見抜くことが、通訳訓練のコツです。
(文・Jay Hirota)
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