Ichthus School of English イクサス通訳スクール

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Lesson 6

 

前回の記事で、私はこう書きました。

 

速読、速聴をする際に、立ちはだかる壁は「教養」と「語彙の不足」です。長年の教授経験から、私は、多くの日本の通訳訓練生の教養と語彙力が貧弱であること知っています。

自覚していても、教養と語彙を豊かにする努力をしない人は、いわば確信犯なので、通訳訓練だけをいくら積んでも、成果が上がらず伸び悩みが続くことになります

 

私は、長年、大学で通訳演習クラスを担当してきましたが、私の通訳クラスに入れる条件として (ひとつの目安として)、 学生には、TOEFL iBTのスコアで 120点中100以上が要求されました。

 

中には110くらいのスコアで、入ってくる学生たちもいました。授業には、日本人学生だけではなく、英語と日本語が流暢に話せる留学生たちも入っていましたので、クラスの使用言語は日本語と英語です。

 

 

日本人学生たちの7割が英語圏からの帰国生たち、中には日英両語が大変流暢に話せる学生たちがいました。だからと言って、通訳技能の習得が早いということにはなりません。日本語・英語の運用能力は、あくまでも通訳技能を習得する前提条件に過ぎないからです。

 

ところが、残念ながら日本の多くの通訳コースは、日本特有の言語教育事情から、英語力を養成するトレーニングになっているというのが大方の現状です。

 

反論を恐れずに真実を書けば、高校で低い偏差値だったが通訳者になった、驚くほど低いTOEICのスコアしか取れなかったが通訳者になった、全く留学経験がないのに通訳者になった、という人たちもおられるようです。

 

そういう方たちは多大なる努力をされたに違いないでしょうが、必要条件としては (絶対条件ではありません)、高校時代はやはり、英語や国語は言うまでもなく、数学も物理もある程度良くできて、高校や大学時代に最低2〜3年の英語圏での生活体験、留学体験がある方が望ましいのです。

 

ただ、望ましい条件を持つ人でも、「できる通訳者」になるには多大な努力は必ず必要になります

 

私が大学の通訳の授業で力を入れたことのひとつが「語彙力」の増強です。大事であると認識していても、学生たちはその努力を怠りがちだからです。

 

単語には認識語彙 (recognition vocabulary)と表現語彙 (active vocabulary)があります。前者は聞いたり読んだりしてわかる単語で、後者は実際に使える単語です。

 

アメリカの言語教育分野でのある調査を見れば、大学教育を受けた平均的なアメリカ人は3万から4万語程度の単語を知っているか、ある程度精通していることがわかります。

 

しかし、そのすべてを日常的に使っているわけではありません。会話で聞いたり、本で読んだりすれば知っているはずです。

 

3~4万語には、いわゆる専門用語は含まれません。社会の特定の分野の人にしか通用しないのが専門用語 (technical terms) です。

 

例えば、医学用語のように、医師はその用語に通じていますが、医師でない普通の人はアメリカ人でもほとんど知りません。専門用語については日本語でも同じことが言えます。

 

従って、私たち通訳者が専門会議で通訳をするには、事前に会議で使用される専門用語を勉強することが必須になります。社内通訳者の人たちも扱う商品やサービス、マーケットに関する知識と語彙には精通されているはずです。

 

私がいう語彙力とは特定分野の語彙ではなく、一般的な語彙です。私たち通訳者は、言葉の専門家です。日本語の語彙が豊かであるだけでなく、英語の語彙も大学教育を受けたアメリカ人やイギリス人並みには持っていなければなりません。

 

語彙力が不足していれば、通訳という仕事を始めればやがて伸び悩むことになるでしょう。たかが語彙ですが、これは発話を聴いたり、スピーチ原稿を読んだりして正確に認識し、理解するには不可欠な要素になります

 

英語に the devil is in the details. (悪魔は細部に宿る)ということわざがあります。細部にまで気を配ることの重要性を強調したいときに使われることわざです。細かいところに陥穽 (かんけい)  trapがあるわけです。

 

私はアメリカの高校で大学進学の準備をしていた頃、SAT (Scholastic Assessment Test) という全米共通の標準テストのような試験を受けるために、むずかしい英語の単語をかなりの数覚えました。この勉強は大学に入ってから随分役立ってくれたことは事実です。

 

私が受験したのは遥か昔でまだ、SATがScholastic Aptitude Test と呼ばれていた時代です。

 

2016年この試験は改定されましたが、かつてSATのテストには難しい語彙を多用した問題が多かったのです。

 

リーディングとライティングのセクションでは、16%の問題が "Sentence Completion "でした。問題には、どのような単語を求めているのかを知るための文脈はありますが、当てはまる単語を正しく特定するためには、解答の選択肢を構成する高度な単語を知っていなければなりませんでした。

 

2016年以前の過去の問題例です。

Though dolphins can be quite -----, jumping in waves and tossing seaweed, they are ----- when protecting members of their pod against predators.

(A) jocose ..ferocious
(B) malleable .. docile
(C) enervated .. decorous
(D) gentle .. decorous
(E) pious .. rectitudinous

 

選択肢から空所に当てはまる単語のペアを選ぶ問題です。

イルカは、波に飛び込んだり、海藻を投げたりして、---だが、仲間を外敵から守るときは---である。

(A) 陽気な ... 凶暴な

(B) 柔和な...おとなしい

(C) 疲弊した...装飾的な

(D) 穏やかな ... 礼儀正しい

(E) 敬虔な ... . 整然とした

 

語彙さえ知っていれば、瞬時に (A) を選べます。アメリカ人の高校生はこの程度の語彙は大学進学準備のために学ぶわけです。母語であっても語彙は自然には増えません。日本語でも同じです。

 

もしこれをお読みになっている通訳者の方が、gentle以外、どの単語も知らない場合は、少し高度な通訳の仕事をするには語彙が不足しています。まともに勉強した高校生は知っています。

 

以前、通訳クラスの日本人の学生で、語彙が少ない学生には SAT Vocabulary 3000 を薦めていました。3つのレベル(易、中、難)に分かれており、それぞれ100語ずつ10回の練習問題が用意されています。過去のSATテストで出題された高頻度の単語を耳から覚えることができます。今でもAmazon audible ですぐにダウンロードできます(有料)。

 

 

ちなみに、hard (難) の単語を聞いてみてください。単語の定義が聞こえてきて、その後、類義語 (時には反意語) も一緒に覚えられます。耳でスペリングを聞いて、文の中でどう使われるかがわかるのも利点です。頭の中でスペル・アウトするのが苦手な人は、手で書いてみてもいいでしょう。

Audio link

https://drive.google.com/file/d/1B0jsGP7KMadQ0rT-L0zDPzTL9Fea-3GN/view?usp=sharing

 

このボキャブラリー・ビルダーを使いこなせない人が通訳の仕事をやるというのは、どう考えても無理があると私は思います。正直なところ。

 

次回は最終回で、具体的に、通訳の技能を向上させる動機づけ (motivation) について書いてみます。(つづく)

 

「悩める」企業通訳者のための通訳レッスン Lesson 5

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