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Lesson 9 – レクチャー編
リスニング素材 & 少々余談

 

前回は、斉藤美津子博士の『きき方の理論』から文章を引用しながら「聴く」ことの重要性を書きました。通訳訓練で何よりも尊重されなければいけない聴き方の訓練は、斉藤先生の言葉を借りれば、「自分を忘れ,相手を受け入れる訓練で積極的な聴き方の根本的な態度」を養うことに他なりません。

 

 

日本で英語教育を受けてきた訓練生にとって極めてむずかしいのは、英語を「聴き取る」という作業です。これは単に英語の「音」を聞くということではなく、英語の「声」を聴く、つまり発言者の「声 (voice = a message)」に耳を傾け、音声メッセージを正確に理解する、という意味で大変むずかしいのです。

 

余談になりますが、たまに受講生から尋ねられる質問が3つあります。

1) 先生の英語力ってどれくらいですか?
2) 以前はどこの大学で教員をされていたのですか?
3) どんな有名人の通訳をされたことがありますか?

 

1) 公正に言って私と英語という言語の関係は、英語は私の第2の母語と言っていいと思います。今は (コロナ感染拡大以前から)多くの時間を日本だけで過ごしていて、以前のように頻繁に第2の祖国のアメリカには戻っていません。ドナルド・トランプが政権についている間はまったくアメリカに行く気はしませんでした。

 

そういう事情もあって、意識的に生活の中に英語と取り入れています。読書は9:1位の割合で英語の本を月に7〜8冊は読んでいます。毎日読む新聞も英語の新聞 (ワシントンポスト紙とガーディアン紙)を読むのに費やす時間の方が、邦字新聞 (朝日新聞)よりも圧倒的に多いです。日本の新聞は、記事も社説もつまらないせいもあります。

 

ストリーミングで英語の映画を観るときは、画面の字幕が消せる場合は、目障りなので消します。ポッドキャストもNHKの日本語のニュース以外はすべて英語のものです。

 

私はアメリカにいた頃からずっと、ひねくれ者なので、何もわざわざアメリカ人たちの英語の喋り方というか、発音的な特徴を真似る必要はない、と思っていました。が、環境とは恐ろしいものですね。

 

会議通訳という仕事を始めて以来、ヨーロッパの人たちから私の英語は「アメリカ英語」であると指摘されることがあり、かなり意識的に矯正 (modify)しました。その時はすでに日本国籍に戻っていましたので、通訳者としては日本的な「中立性」みたいなものを意識して、できればヘッドフォーンから聞こえる英語は、日本人の通訳者の英語だとわかる方がいい、と考えていました。今もその考えは変わりません。

 

そういうわけですので、正直に告白をすれば、英語を言語として「聴く」際には、音声としては聴き取りに困難を感じたことはありません。しかしながら、アメリカでの自分の言語習得の経験から考えれば、その難しさは認識しています。

 

2) 今まで教えてきた大学はアメリカ、イギリス、日本の大学ですが、日本の大学はいわゆる「名の通った」大学です。個人的にはお教えしますが、わざわざブログに書く気はありません。

 

3) 会議通訳を始めた頃は様々な通訳の仕事をしていましたので、いわゆる「名の通った」方たちの通訳もしましたが、その方達の名前をブログに列挙して、だから自分も有名なんだと嘯 (うそぶく) ほどヤボではありません。通訳の仕事の価値はそんなところにありませんから。ー秘すれば花。

 

どこの大学で教えていただの、どんな有名人 (知名度の高い会議の参加者)の通訳をしただの、という背景を立てて、その前に立つようにして、自分を引き立てようとする趣味は、悪趣味だと私は思っています。

 

さて、閑話休題。

 

聴き取りが困難になる5つの要因は以下の通りです。

1) 英語話者のさまざまな話し方に慣れていない
2) 話の背景がよくわからない
3) 使用されている単語や表現を知らない
4) 英語の文法力が乏しい
5) 集中力がない

 

通訳者が扱う発言内容は、大抵の場合、フォーマルないしはセミ・ファーマルな英語の発話です。そのため、そういう「よそ行きの英語」に親しむ必要があります。練習に使うマテリアルを選ぶ場合も、日常会話的なくだけた英語の発話は適しません。

 

テーマのない雑談のような話も「整理」しようがないので、良くありません。それに簡単な単語だけで完結してしまう話だと、語彙は増えないので物足りない結果になります。

 

それに簡単な短い会話であると「文法知識」が不十分でもわかるので、文法力の欠如から生じる「痛み」が自覚できず、「文構造」を意識できなくなります。外国語として言語を聴く際には、読むとき同様に、「文構造」の理解はすこぶる大切です。また短い英語の会話を聞くだけだと「集中力」はいらないので、その点でも訓練材料としては相応しくありません。

 

通訳的な訓練としての聴き方は、言ってみれば、発話者の「声 (メッセージ)」を頭の中で「整理」して「秩序」立てていくことです。言い換えれば、「耳」で「読む」ような作業にすることが効果的です

 

AmazonのAudible を積極的に利用するのがお勧めです。ただし、アカウントはAmazon.com (https://www.amazon.com/)で作る必要があります。日本のオーディブルは品揃えが乏しくて訓練の材料を探すという目的には適しません。

 

有名なスピーチ集は大変いい教材になります。

 

1) Great Moments in History: The Ultimate Collection of Historically Significant Speeches

マーチン・ルーサー・キング、ウィストン・チャーチル、ジョン・ケネディーなど近代史上、一度は聴いておいて損のないスピーカーたちのスピーチがたくさん聞けます。有名なくだりなどはよく引用されることがありますので、名句は覚えておかれるといいでしょう。

 

2) The Greatest Speeches of Great Women

スポーツ選手、政治家、実業家、外交官、国家元首、活動家、慈善家など、最近の歴史上、世界的に有名な女性たちのスピーチを集めたものです。彼女たちが講演を行った公の場で録音されたコンテンツで、実際の声を聞くことができます。

 

YouTube ではぜひカズオ・イシグロ氏がノーベル文学賞を受賞したときのスピーチを聴いてみてください。政治家やビジネスパーソンたちとは違った世界観で語られるイシグロ氏の言葉には、じっくりと耳を傾ける価値があると思います。

 

通訳のトレーニングとしては、いつも漫然と聞くのではなく、聴く訓練をするときは、手元にメモを用意して、簡単でいいので発言者の話を整理します。手間をかけてください。

 

そうして自分の頭の中にスピーカーの話の「論理の秩序」を作っていきます。こういうタスクを課すことで、聴く「目的」をはっきりさせるのです。そうでないと「流し聞き」になってしまう可能性が高くなります。

 

できれば、聴き取った発言を文字で確認できる書き起こしテキストがあれば、それを使うのが効果的です。知らない単語はいくら繰り返して聞いてもわからないことがしばしばです。それに自分が聞き取った内容を、文字を読みながら確認していくと、理解の定着につながります。

 

さらに身近なところではポッドキャストが活用できます。たとえば、ニュースの話題のような「テーマ」のある番組がいいです。内容が毎日変わるものであれば、マンネリ化もしません。アプリを利用すれば毎日すぐに聴けます。

 

個人的には (あくまで私の好みですが)、MSNBCのThe Rachel Maddow Show はお勧めのひとつです。

 

https://the-rachel-maddow-show.simplecast.com/

 

レイチェル・マドーは、スタンフォード大学で公共政策の学士号を取得し、公共サービスのためのジョン・ガードナー・フェローシップを獲得しています。

 

私の故郷であるサンフランシスコで1年間、AIDS Legal Referral PanelとAIDSの非営利団体ACT-UPで働いた後、ローズ奨学金を得てオックスフォード大学で政治学を専攻。

 

2001年にオックスフォード大学の政治学博士号を取得しています。彼女はカミングアウトしたゲイで、LGBTQをはじめ様々なマイノリティー・コミュニティへのトランプ政権の政治的な不正義に向けた、ジャーナリストとしての批判と果敢な挑戦は大いに賞賛に値する、と私は思っています。

 

ドナルド・トランプという「悪と不正」の権化 (ごんげ) のような大統領の登場で、既存メディアの「正体」が暴露されたのは不幸中の幸いであった、と私は考えます。

 

良識のない共和党員のお気に入りであるFOX NEWSなどは今さら論じる必要はありません。

 

が、歴史と伝統あるウォール・ストリート・ジャーナル紙 (Wall Street Journal) が気候変動の否定やトランプ大統領に好意的な姿勢を貫いたこと。またペンス副大統領の寄稿で、新型コロナウイルスに「第二波はない」とする主張や、トランプ政権が主張したでたらめな数字をチェックもしないで公開したことなどには驚きを通り越して、私は嫌悪感を覚えました。

 

時の政権に屈するような新聞は、以前書いた Fourth Estate (ジャーナリズム) の面汚しです。

 

CNN はこのように報じています。

https://edition.cnn.com/2021/10/28/opinions/trumps-ridiculous-letter-to-wall-street-journal-dantonio/index.html

 

記事引用

“It's notable here that he's addressing the editorial page of the Wall Street Journal, which is so indulgent of extreme right-wing opinions that last year 280 newsroom employees signed a letter complaining of a "lack of fact-checking and transparency" that threatened the paper's credibility.” -CNN

(注目すべきは、トランプ氏がウォールストリート・ジャーナルの社説欄で演説をぶったことである。WSJ紙は極右翼的な意見に寛容で、昨年は新聞の信用を脅かした「事実確認と透明性の欠如」に関して、280人のWSJの報道部員がクレームの手紙に署名した)

 

私が補足すれば、この書簡 (a complaining letter)では「オピニオン欄の事実確認と透明性の欠如、明らかな事実に対する無視が、読者や情報源から信頼を得る努力を無にしている」と明記されていました。

 

通訳という仕事の一部は、情報収集ですので、どんな新聞をお金と時間をかけて読んでいるかでその通訳者(や訓練生)の能力のようなものがわかります。

 

WSJの購読者やトランプをいまだに救世主などと思い込んでいる方は、The Rachel Maddow Showには逆に嫌悪感を感じられることでしょう。

 

そういう方には、FOX NEWS のA Dana Perino Podcastなどがお気に召すのではないでしょうか。

https://podcasts.apple.com/us/podcast/a-dana-perino-podcast-everything-will-be-okay/id1080412254

 

アメリカやイギリスではどんな新聞を読み、どんなポッドキャスが好きかでその人の政治姿勢のようなものがうかがえます。(通訳訓練の話でなければ)私は個人的には、誰が何を読み、何を聴いていようとまったく気にしません。

 

まさに It takes all kinds to make this world. ということわざ通りです。

 

次回は、サイトトランスレーションを取り上げます。(つづく)
-Jay Hirota

 

日本人のための通訳レッスン (レクチャー編) Lesson 8

 

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