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Lesson 4

 

前回、「私たち通訳者は、できるだけ自分の雑学的知識から教養的知識まで、その範囲を広げるよう努めることが必要です」と書きました。この必要性は、プロの会議通訳者であろうと、企業内通訳者であろうと同じです。今回は、日常生活の中で効率的に情報を収集する方法をご紹介します。

 

速読 (speed reading) と速聴 (speed listening) です。

 

私が人生で初めて速読の必要性に迫られたのは、アメリカの大学・大学院で勉強している時でした。とにかく読書課題が多いのです。のろのろ課題図書を読んでいたのでは、締め切りまでにペーパーを書くことはおよそ叶いません。

 

そこで、思い切って、大学内で速読トレーニングのコースを取ることにしました。最初はあまり効果が現れず、時間をムダにしているような気がしていました。しかし、あるポイントを超えたあたりから、自分の脳が以前よりも速い速度で、読んでいる情報を処理していることに気づき始めました。

 

つまりトレーニングを重ねていくうちに、私の脳が速読に慣れてきたのです。それ以降、速読できることは、貴重なスキルになりました。

 

学者として論文を書く際には、いろいろと文献を読むことが必要になります。速読の技能を習得したおかげで、それまでの5倍以上の速度で新聞、雑誌、本を読んで、情報を処理できるようになりました。

 

私がいう速読とは、まるで銀行員が札束の枚数をすばやく数えるように、ページを瞬時にめくるという「ベージの早めくり」ではありませんので、誤解なきように

 

速読のスキルは、会議通訳者として通訳の準備をする際にも大いに役立ってくれます。日頃から、英語を含めて4紙の新聞には毎日目を通して、必要な情報はメモに書き留めます。

 

また、専門会議の通訳をする前には、資料だけでなく、関連する本には日本語と英語の両方で目を通します。こうすると、速く情報を収集でき、時間の節約につながるのです。

 

訓練の成果は、それを体験した者にしかわかりません。通訳の訓練もそうですが、私の観察では、多くの人たちが成果の現れる前に、諦めてしまうようです。なぜでしょうか?

 

端的に言えば、向き不向きです。言い換えれば、継続できれば、「才能」があると言えるのではないでしょうか。

 

私は、通訳者は、a fast thinker, a fast reader, a fast listener であるべきだと考えています。

 

A fast listener であるという点は、特に通訳という音声言語を扱う職業においては重要な点です。通訳の仕事をされている方、勉強をされている方には、速聴 (speed listening)をお勧めします。

 

速読 (speed reading)と速聴 (speed listening) は、本質的には違うもののように思われますが、意外とつながっています。速聴が登場する前は、速読することで、情報を速く読もうとしていました。

 

現在は、テクノロジーの進歩により、情報をより速く「聴こう」とするビジネスパースンが増えています。

 

まずは、速読の仕組みからごく簡単に説明します。

 

速読は、練習して身につける技術です。なかなか自然には習得できないものです。読んでいる内容を速いスピードで「理解する能力」のことです。速読を上達させるためには、次のような練習方法があります。

 

頭の中で声を出さない

 

これは、読んでいる単語を頭の中で発音すること (sub-vocalization) をしないということです。そのためには、単語・語句ではなく、書かれている「情報」に注意を払い、早く読み進むトレーニングが必要になります。

 

「単語のグループ化 」を行う。

 

単語を個別に読むのではなく、主要情報 (main ideas)に注意して、「意味のかたまり」を読むという読み方に切り替えるのです。

 

速読のメリットは、先にも書きましたが、まとめれば次のような点です。

 

1) 情報の吸収

速読は、情報を効率よく頭に吸収させることができます。通常のペースで読書をしていると、頭の中に情報過多が発生して、それ以上の情報を理解することが難しくなってくるのです。

 

また、速読によって、情報の中の重要な要素 (情報) (main ideas) に注意を払うことができるようになり、読むのにかかる時間と理解できる情報量が改善されます。

 

2) 記憶力の向上

速読のスキルを習得することで、記憶力が向上します。逆に、遅読 (slow reading) は、読んだ内容をどんどん忘れていく読書法と言ってもいいくらいです。

 

速読ができれば、ただ読むだけではなく、新しい情報をもっと吸収したいという意欲が湧きます。これは、重要なメリットです。

 

3) 集中力の向上

通常のペースで文章を読んでいると、気が散ってしまうことがあります。速読は、処理しなければならない情報量に圧倒されずに済むために、読むのに必要な集中力が持続しやすくなるのです。

 

4) ポジティブ思考

速読を始めて、想像以上に多くの情報を理解できるようになると、体と頭に良い影響が出てきます。読書に自信が持てるようになるのです

 

たとえば通訳の準備のために、たくさんの資料を読まなければならない際に、この自信は効力を発揮します。

 

英語の速読の教材は溢れていますが、Speed Reading with the Right Brain: Learn to Read Ideas Instead of Just Words という本に目を通されることをお勧めします。ペーパーバックでも読めますが、Kindle 版なら$ 7.00ほどで購入できます。

 

 

次に、速聴 (speed listening) ですが、私は毎日、数種類の英語のpodcastsを聴いていますし、英語で audiobooksも聴きます。

 

Podcastsは英語ニュースや時事問題を扱ったものを中心に聴いています。Audiobooksはもっぱら英語の小説の朗読です。英語のナレーターたちはどれも素晴らしいです。目で読むのとは違う楽しみがあります。YouTubeの英語のビデオも観ます。

 

聴く際にはあえて音声速度を上げます。最初は慣れないためにおかしな感じがしますが、脳はすぐに慣れてきます。一度速い速度に慣れてしまえば、普通の速度で聴くと、遅く感じます。

 

速聴は速読と同じような効果が期待できます。時間の節約と集中力の向上という点では、速読と同じ効果があるのです

 

たとえば、BBC のGlobal News Podcast は30分ですので、倍速で聴けば、15分で聴き終えられます。こうして時間を節約できます。

 

ニュースだけでなく、皆さん各人、好きなポッドキャストを選んで、聴いてみて下さい。

 

私はApple Podcast (https://www.apple.com/apple-podcasts/) を利用しています。もちろん、Google podcasts でも変わりません。

 

 

速聴のためのポイントを書いておきます。

 

1) ビデオ・スピード・コントローラーを使う

ビデオ・スピード・コントローラーは簡単にダウンロードすることができます。私が使っているソフトウェアは、YouTubeのビデオを最大4倍まで高速化することが可能です。トークやインタビュー番組などは、要点を把握したいときに大変有効です

 

2) スマホのアプリを使う

スマートフォンでも音声を録音することはできますが、内蔵されているレコーダーの多くは、録音を高速化するオプションが表示されていません。そこで、「Audipo」などのアプリケーションを利用するとよいでしょう。こうしたアプリケーションでは、録音した音声を2倍の速度で聞くことができます。

 

 

3) ポッドファスターを使う

ポッドファスター (podfaster) は、poscastsを単に2倍の速度ではなく、超高速で聴くことができます。膨大な量の情報を、速聴して処理することができます。

 

私は、特に、聴きたい番組がたくさん残っているときや、新しい podcastsを見つけて、その過去の番組を聴きたいときなどは、podcastsを1.2倍や1.5倍のスピードにすることがあります。

 

速聴のメリットは主に2つあります。

 

1) 効率性 の向上

Podcastsのスピードを上げることで、時間とリソースを節約し、さらに多くのpodcastsを聴くことができますし、それだけ情報量は増えるわけです。

 

2) 理解の幅の拡張

Podcastsを理解しながら高速で聴くためには、会話形式のものや自分がよく知っているトピックのみを高速化することをお勧めします。

 

濃い内容のものをスピードアップすると、理解しにくくなります。さらに、聞いている内容を理解し、学ぶための最適な速度は、初めは1.25倍と1.5倍です

 

次に、速聴スキルを向上させる具体的な方法を挙げておきます。

 

速読と同じで、トレーニングが成功の鍵となります。できるだけ多くの音声を聴く習慣をつける必要があります。速聴の習慣をつけるには、継続的に少しずつ速度を上げながら聴き続けることが大切です

 

1) ビデオの場合

ビデオソフト VLC(Video LAN Client)などのビデオソフトを使って録画したビデオを高速化したり、YouTubeなどのオンライン・プラットフォームからビデオをダウンロードしたりすることができます。

 

2) ブラウザツール

インターネット上の記事を読む際に、Text to Speech (音声読み上げ) のツールを使います。これは テキストを自然な音声に変換する音声サービス機能のことです。私は教材を作る際には、Ondoku を使っています。

 

3) オーディオブック

オンラインで入手できるオーディオブックのほとんどは、Audibleのプラットフォームを利用しています。このウェブサイトには、再生速度を最大3倍にすることができる機能が組み込まれています。

 

概して言えることは、最初の2分間ほどは普通の速度で聴いて、1.25倍に速度を上げます。この速度は、少し速くなったくらいの聞こえ方です。早口の人が話すスピードよりはまだ遅いです。1.25倍に設定して、3日ほど続けて聴いていれば、脳がその速度に慣れていきます。すると元の速度が遅く感じるはずです。

 

通常、英語の場合、人間は遅くても、1分間に120語を聴いて理解できます。1.5倍速にすれば、1分あたり約180 語を聴くことになります。この速度でしばらく聴いていれば、脳はそのレベルに慣れてしまい、2倍速に移行することができます。2倍速が速すぎると感じれば、脳がまだ慣れていない (not acclimatize) 証拠なので、1.5倍に戻します。

 

音声速度 (audio speed) を2倍に設定すれば、2.5倍にレベルを上げることは容易です。それで速く感じれば、2.2倍に落とします。こうして脳が不自然に感じないように微調整を繰り返して聴いていけば、3倍速でも不自然に感じなくなっています。

 

脳を甘やかさずに、目標に慣れさせる訓練がポイントです

 

以前、大学の通訳演習クラスで、速聴訓練を続けたところ、英語の発話を聴いてメモを取りやすくなった、とアンケートに回答した学生は、クラス全体の70% でした。

 

情報取集の範囲を広げるためにも、発話を聴いて余裕を持ってメモを作成できる能力を向上させるためにも、速聴のトレーニングを続けてみられたらどうでしょう。

 

速読するにしても、速聴するにしても欠かせないのが語彙力です。

 

次回はボキャブラリーの増やし方を考えていきます。(づづく)

 

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